子どもが思春期を迎えると、親として悩む場面が増えてきます。
「最近、何を考えているのか分からない」
「言っても聞かないし、すぐに反発される」
「将来のことをちゃんと考えているのか不安」
そんな風に、子どもとの距離を感じることはありませんか?
でも実は、子どもたちもまた、同じように悩み、迷いながら過ごしています。
「自分って何者なんだろう」
「このままでいいのかな」
「将来、何になればいいのか分からない」
思春期は、自分と向き合いはじめる大切な時期です。
その一方で、大人のように言語化する力や、客観的に自分を見つめる力は、まだ育ちきっていません。
だからこそ今、「自己理解」と「コーチング」という考え方が、とても大切なのです。
このブログでは、中学生の子どもをもつ親御さんに向けて、 「自分の人生を生きる」ために必要な、自己理解とコーチングの力についてお伝えしていきます。

自己理解とは、「自分を知る」こと
自己理解とは、文字通り「自分を理解すること」。
もっと分かりやすく言えば、
自分はどんな性格で
何が好きで、何が苦手で
どんな時に嬉しくて、どんな時にイライラするのか
そういった、自分の“内側”を言葉にできる力のことです。
たとえば、ある中学生が「学校に行きたくない」と言ったとします。
このとき、「怠けてるだけでしょ」「甘えないで」と言ってしまうと、その子の本音には届きません。
でも、じっくり話を聞いていくと
友達関係でうまくいっていない
授業についていけない不安がある
自分だけが浮いているように感じる
など、さまざまな“背景”が見えてくることがあります。
自己理解は、そうした「自分の本当の気持ち」に気づき、言葉にするための土台になる力です。
そしてこの力は、思春期にこそ育てていく必要があります。
なぜなら、大人になったときに「自分がどうしたいのか」が分からないと、
人に流されたり、他人の期待に応え続けたり、
「なんとなく不安」「なんとなくモヤモヤ」のまま、人生を進めてしまうからです。
コーチングとは、「答えを引き出す対話」
では、その自己理解をどう育てていけばいいのでしょうか?
そこで有効なのが「コーチング」という関わり方です。
コーチングとは、簡単に言うと「相手の中にある答えを、対話を通じて引き出していくコミュニケーション」です。
ポイントは、
答えを与えるのではなく、
相手自身が気づき、選び、行動することをサポートする
というスタンスにあります。
たとえば、
「なんで宿題やらないの?」と問い詰めるのではなく、
「宿題、やりたくない気持ちってどこから来てるんだろう?」と問いかける。
「早く進路を決めなさい!」と急かすのではなく、
「将来、どんなふうに生きていきたいと思ってる?」と聴いてみる。
このように、子ども自身の気持ちや考えに目を向ける問いかけをすることで、
少しずつ「自分はどうしたいのか」「何を感じているのか」に気づき始めます。
コーチングは、相手を変えようとする関わりではありません。
相手が自分と向き合うための“鏡”のような存在になること。
それが、コーチングの役割です。
「親だからこそできる」コーチング的関わり
とはいえ、「コーチング」なんて難しそう…と思うかもしれません。
でも、特別な資格やスキルがなくても、
親として子どもと関わる中で「コーチング的な関わり」をすることは可能です。
たとえば、
話を最後まで聴く
否定せずに受け止める
「どうしたい?」と問いかける
子どもの気持ちを代弁してみる
たったこれだけでも、子どもは「自分をわかってもらえた」と感じ、
自己理解を深める第一歩になります。
親は、子どもにとって一番身近な存在です。
だからこそ、その関わり方が大きな影響を与えます。
子どもが「自分の人生を生きる」ためには、
まず「自分の気持ちを話してもいいんだ」と思える安全な土壌が必要です。
その土台をつくるのが、親や大人の役割だと私は思っています。
Case1:比べてばかりで自信が持てなかった中学2年生のAくん
Aくんは、いつも周りと自分を比べて落ち込んでいる様子でした。
「同じクラスの○○くんは勉強も運動もできるし、部活でも活躍してる。自分なんて何もない」
そんな言葉が口癖になっていました。
Aくんに対して、最初に行ったコーチングでは「誰かと比べて落ち込む気持ち」がどこから来ているのかを一緒に探りました。
問いかけたのは、たとえばこんな言葉です。
「Aくんは、どんなときに“自分はダメだ”って思うの?」
「“できる人”って、Aくんの中でどんなイメージ?」
「もし、比べる相手がいなかったら、今の自分をどう思う?」
このやりとりを繰り返す中で、Aくんは気づいていきました。
「僕、誰かに“すごい”って思われたかったんだと思う」
「自分にしかない“得意なこと”を見つけたら、比べなくて済むのかも」
そこで次は、「自分の強み」について一緒に振り返りました。
友達から言われて嬉しかった言葉、家で何気なくやっていること、時間を忘れて没頭できること…。
出てきたのは「観察力」でした。
「実は、友達の気持ちにすぐ気づく」「小さな変化にすぐ気づく」
そんな特徴を自分でも初めて“強み”として認識できたのです。
「比べるんじゃなくて、自分の武器を磨いていけばいいんだと思った」
そう話すAくんの表情には、以前にはなかった“自分への肯定感”がにじんでいました。
Case2:やる気が出ない。進路に迷う中学3年生のBさん
Bさんは、進路を決める時期になっても何も書けず、担任の先生から「どうしたの?」と聞かれることが増えてきました。
本人も「なんとなくやる気が出ない」「自分に向いてることがわからない」と悩んでいました。
最初のコーチングでは、無理に将来のことを考えさせるのではなく、過去の経験を振り返ることから始めました。
「今までに“楽しかった”と思えた瞬間って、どんなとき?」
「やっていて時間を忘れたことってある?」
「小さいころの夢って、何だった?」
Bさんは最初、「そんなの、特にないかも…」と話していましたが、少しずつ話していくうちに、「小学校の学習発表会で、司会をやったことが楽しかった」と思い出しました。
「人前で話すのって、得意かも」
「説明するのがうまいって友達に言われたことがある」
そうしたエピソードから、「人と関わる仕事」「伝える仕事」への興味が見えてきました。
「今すぐ職業を決めるのは無理でも、自分の“好き”や“得意”が進路選びのヒントになるんですね」
そう語るBさんの顔には、迷っていたときの不安が少し和らいだ様子が見えました。
「気づく力」が、子どもの未来を変えていく
どちらの事例にも共通していたのは、「気づき」がもたらす変化です。
気づきは、自分の中にある答えと出会った瞬間に生まれます。
そしてその気づきは、コーチングのような「安全で安心な対話」のなかでこそ育ちます。
子どもたちが変わったのは、「正しい答え」を教えられたからではなく、
「自分の中の思いや願いに気づき、自分で選ぼうとしたから」です。
私たち大人も、そんな“気づく対話”を日常に取り入れていくことができます。
親子の間にも、コーチングのような関わりを
ここからは、親子関係に応用できるポイントを3つご紹介します。
①「問い」を変えるだけで、会話が変わる
つい言いがちな質問:
「今日のテスト、何点だったの?」
「宿題終わったの?」
「勉強、もっとやりなさいよ」
これを少し変えるだけで、対話の質が変わります。たとえば:
「今日、一番頑張ったことは何だった?」
「学校でちょっと嬉しかったこと、あった?」
「今、いちばん気になってることって何?」
このような問いかけは、子どもにとって「自分の内側に目を向ける」練習になります。
答えがすぐ出なくても大丈夫。問いかけが、子どもの中に「自分ってなんだろう?」という種をまいていきます。
② 親も「自己理解」を深めることで、関係が変わる
子どもと向き合うには、まず親である私たちが「自分自身」と向き合うことが必要です。
・自分は子どもにどんな期待をしているのか?
・その期待は、自分が過去に満たされなかった思いから来ていないか?
・子どもが「自分らしく」生きるために、私が手放すべきものは何か?
たとえば、自分が子どものころ「いい子」でいようと頑張ってきた人ほど、無意識に「自分の子どもも“しっかり”していてほしい」と感じてしまうことがあります。
でもその期待が、子どもに「本当の自分を出しにくくさせている」としたら?
親が自分の内面に気づくことで、子どもにも「ありのままでいていいよ」というメッセージが自然と伝わるようになります。
③ 家族だからこそ「聴く姿勢」を大事にする
コーチングでは「傾聴(けいちょう)」が最も大事なスキルの一つです。
聴くとは、ただ「音を耳に入れる」ことではありません。
「相手の気持ちごと受け止めようとする姿勢」を意味します。
親子の会話でも、「ちゃんと聴く」ことを意識してみてください。
・途中で口をはさまずに聴く
・相手の言葉の奥にある気持ちに意識を向ける
・アドバイスより、「そっか、そう感じたんだね」と共感する
これだけでも、子どもは「受け入れられている」と感じ、心を開きやすくなります。
最後にもう一度、伝えたいこと
「自分の人生を生きる」ために必要なことは、特別な知識や技術ではありません。
それは、自分の気持ちに気づく力、自分の価値を信じる力、そして自分で選ぶ勇気です。
その力は、親子の会話や関わりの中で育まれていきます。
そして、あなた自身が「自分の人生を丁寧に生きている」ことが、子どもにとって最大の教科書になります。
今日このブログを読んだことも、ひとつの出発点です。
「もっと子どもの話を聴いてみよう」
「自分の価値観にも耳を傾けてみよう」
そう思えたとしたら、もうすでに“親としてのコーチング”は始まっています。
親御さんへ贈る問い
この記事の最後に、あなた自身への問いを贈ります。
よかったら、心の中でゆっくり考えてみてください。
・あなたは、どんなときに「自分らしく生きている」と感じますか?
・子どもにどんな未来を歩んでほしいと願っていますか?
・その願いを叶えるために、あなたが今できる小さな一歩は何ですか?
子どもも親も、今というこの瞬間を「自分の人生」として大切にしていけますように。