2026年9月、奈良県および三郷町教育委員会、斑鳩町教育委員会、安堵町教育委員会、平群町教育委員会の後援をいただき、「AI時代に本当に必要な『自分で選ぶ力』の育て方 ~家庭と学校でできる自己理解の関わり方~」を開催しました。
会場では、中学生の保護者の方や教育に関心を持つ方々と一緒に、AIが身近になった今、子どもたちに本当に必要な力とは何かを考えました。
AIは、質問をすれば数秒で答えを返してくれます。宿題、作文、英作文、調べもの、進路情報、職業情報まで、これまで人が時間をかけて集めていた情報を、素早く整理し、比較し、提案してくれます。
しかし、AIがどれだけ進化しても、本人に代わって決められないことがあります。
「あなたは、どうしたい?」
この問いへの答えです。
何を大切にしたいのか。どのような人生を送りたいのか。本当は何をしたいのか。どのような人になりたいのか。情報を得ることはAIに手伝ってもらえても、最後に選ぶのは本人です。
だからこそ、AI時代には「正解を出す力」だけではなく、自分の気持ちや価値観を知り、自分なりの答えを選ぶ力が必要になります。その土台になるのが、自己理解です。
この記事では、セミナーでお伝えした内容と参加者アンケートをもとに、AI時代の子どもたちに必要な「自分で選ぶ力」、家庭や学校でできる関わり方、そして大人自身が自分を理解することの大切さをお伝えします。

奈良県と各教育委員会の後援を受けて開催しました
今回のセミナーは、私が代表を努めるライフコモン株式会社主催で、奈良県、三郷町教育委員会、斑鳩町教育委員会、安堵町教育委員会、平群町教育委員会の後援をいただき、いかるがホールや王寺町やわらぎ会館などで開催しました。
テーマは、子どもに「正しい答え」を教える方法ではありません。子どもが自分の気持ちを知り、自分で考え、自分で選べるようになるために、家庭と学校がどのような環境をつくれるかです。
私自身、中学校の3年間が人生の中で最も苦しい時期でした。自分の気持ちが分からない。周りの目が気になる。自分に自信を持てない。けれど、その苦しさをうまく言葉にすることもできませんでした。
現在は、中学生の進路相談や悩み相談、保護者の方への子育て相談、学校や教育機関での研修などを行っています。中学生が自分と対話するための本『心のキャッチボール ~自分を知る練習ノート~』も出版しました。ありがたいことに、この本は中学校の図書館にも置いていただいています。
私が一貫して伝えているのは、「人生は自己理解から始まる」ということです。
自分のことが分かれば、迷わなくなるわけではありません。失敗しなくなるわけでも、いつも自信を持てるわけでもありません。それでも、自分が何に迷っているのか、何を大切にしたいのか、どのような環境なら安心できるのかが分かると、人は迷いながらも前に進めます。
反対に、自分のことが分からないままでは、周りの正解に振り回されやすくなります。
「みんなが選んでいるから」
「親が勧めたから」
「先生に向いていると言われたから」
「SNSで人気だから」
周囲の意見を参考にすること自体は、悪いことではありません。ただ、自分の気持ちや価値観を確かめないまま決め続けると、自分の人生なのに、その中から「自分」がいなくなってしまいます。
今回のセミナーは、子どもに何を選ばせるかを考える場ではなく、子どもが自分で選べるようになるために、大人がどのように関わるかを考える時間になりました。
AI時代は「答えを知っていること」の価値が変わる
これまでの教育では、答えを知っていることや、正解を早く出せることが高く評価されてきました。もちろん、基礎的な知識を身につけることは、これからも大切です。考えるためには材料が必要であり、何も知らない状態では、比較することも判断することもできません。
一方で、AIの普及によって、「答えを出せること」だけの価値は大きく変わり始めています。
分からない言葉があれば、すぐに説明してもらえます。複数の学校の特色を表にしてもらうこともできます。興味のある仕事に必要な資格や進路を整理することもできます。文章のたたき台を作ったり、考えを整理する質問を出してもらったりすることもできます。
情報を集める力や答えをつくる力の一部を、AIが支えてくれる時代になりました。
では、人間に必要なのは何でしょうか。
それは、出された答えをそのまま受け取るのではなく、「この答えは自分に合っているだろうか」「自分は何を大切にしたいのだろうか」と立ち止まって考える力です。
AIは、条件を入力すれば選択肢を比較できます。しかし、その条件の中で何を優先するかは本人にしか決められません。
たとえば高校選びで、偏差値、通学時間、部活動、校風、進学実績、学費などを比較することはできます。しかし、「自分は高校生活で何を大切にしたいのか」「どのような仲間と過ごしたいのか」「何に挑戦したいのか」という問いには、唯一の正解がありません。
正解がないからこそ、自分の内側にある気持ちや価値観を確かめる必要があります。
これからの子どもたちは、AIに仕事を奪われないために特別な能力を身につけなければならない、と不安をあおられることもあるでしょう。しかし、私はまず、「自分の人生を自分として生きる力」を育てることが大切だと考えています。
AIを使うか使わないかという二者択一ではありません。AIの情報や提案を上手に借りながら、最後は自分で確かめて選ぶ。そのために必要なのが、自己理解なのです。
AIには相談できるのに親には話せない理由
中学生と関わる中で、実際に次のような言葉を聞くことがあります。
「AIの方が話しやすい」
「否定されないから安心する」
「何を言っても怒られない」
この言葉は、今の時代を象徴しているように感じます。
子どもたちは、単に正しい答えだけを求めているのではありません。自分の気持ちを途中で遮られず、すぐに否定されず、安心して出せる場所を求めています。
親に話したくないわけではなく、「話した後にどう反応されるか」が怖いことがあります。
「そんなことで悩んでいるの?」
「あなたにも悪いところがあるんじゃない?」
「もっと頑張りなさい」
「お母さんのときは、そんなことで休まなかった」
大人には責めるつもりがなくても、子どもは「この気持ちは受け止めてもらえない」と感じることがあります。一度そう感じると、次からは本音を隠したり、大人が安心する答えだけを話したりするようになります。
もちろん、家庭や学校にはルールが必要です。危険な行動を止めることも、守るべきことを伝えることも必要です。しかし、指導することと、気持ちを受け止めることは両立できます。
「そう思ったんだね」
「それは苦しかったね」
「話してくれてありがとう」
まずは、子どもが投げてくれた言葉を、そのまま受け止める。私はこれを「心のキャッチボール」と呼んでいます。
キャッチボールでは、相手が投げたボールを受け取る前に打ち返すことはできません。心の会話も同じです。子どもの言葉を受け取る前に、正論やアドバイスを返してしまうと、子どもは「受け止めてもらえなかった」と感じます。
受け止めることは、子どもの言うことをすべて認めることでも、要求をすべて受け入れることでもありません。
「あなたがそう感じていることは分かった。そのうえで、どうするかを一緒に考えよう」
この順番が大切です。
中学生が自分で決められないのは悪いことではない
進路相談で、「自分が何をしたいのか分かりません」と話す中学生は少なくありません。保護者の方からも、「いつまでたっても志望校を決めない」「聞いても分からないとしか言わない」という相談を受けます。
大人は期限が見えているため、心配になります。早く決めなければ選択肢が狭まるのではないか、あとで後悔するのではないかと考え、「そろそろ決めなさい」「この学校がいいんじゃない?」と答えを急がせたくなります。
けれど、思春期に「自分が分からない」と感じるのは、とても自然なことです。
中学生は、心も体も大きく変化する時期にいます。友人関係が変わり、親との距離感が変わり、成績や進路によって評価される機会も増えます。昨日までは楽しかったことに興味を持てなくなったり、反対に、今まで気にしていなかったことが急に大切になったりもします。
変化の途中にいる子どもに、すぐに一貫した答えを求めても、言葉にならないことがあります。
必要なのは、「分からないなら早く決めなさい」と急かすことではなく、安心して考えられる時間と場所をつくることです。
大人が焦るほど、子どもは正解を探し始めます。「自分はどうしたいか」ではなく、「何と答えれば親が安心するか」「どれを選べば先生に評価されるか」を考えるようになります。
そして、周りが望む答えを選べたとしても、困難にぶつかったときに「自分で選んだ」という感覚がなければ、踏ん張る理由を見失いやすくなります。
自分で選ぶとは、一人ですべてを決めることではありません。情報をもらい、相談し、迷い、考えたうえで、最後に「私はこれを選ぶ」と納得することです。
その経験を積むためには、小さな選択から始めることができます。休日をどう過ごすか。どの順番で宿題をするか。部活動で何を目標にするか。失敗したときに次はどうするか。日常の中には、自分の気持ちを知り、自分で選ぶ練習の機会がたくさんあります。
自己理解とは自分の正解を固定することではない
セミナーでは、自己理解を次のようにお伝えしました。
・自分の気持ちを知ること
・自分の価値観を知ること
・自分の得意なことと苦手なことを知ること
・自分が安心できる環境を知ること
・自分が大切にしたいものを知ること
自己理解という言葉を聞くと、「本当の自分を一度で見つけなければならない」と感じる方がいるかもしれません。しかし、自分は一つの言葉で説明できるほど単純ではありません。
環境によって出てくる面は変わります。経験によって価値観も変わります。得意なことが負担になる時期もあれば、苦手だと思っていたことが誰かとの出会いによって好きになることもあります。
自己理解は、自分を決めつけることではなく、そのときの自分を丁寧に観察し続けることです。
「今、どのような気持ちなのか」
「なぜ、それが気になったのか」
「本当は、どうしてほしかったのか」
「何をしているときに安心するのか」
「何は譲れて、何は大切にしたいのか」
こうした問いを繰り返すことで、自分の輪郭が少しずつ見えてきます。
子どもにとって、自分の気持ちを言葉にすることは簡単ではありません。だからこそ、最初から立派な答えを求めないことが大切です。
「分からない」も一つの答えです。
「うまく言えない」も、今の状態を表す大切な言葉です。
大人が沈黙を怖がらず、答えを待つことができると、子どもは自分の内側を探す時間を持てます。
参加者アンケートから見えた三つの大切な気づき
今回、アンケートでは3名の方から回答をいただきました。満足度は「満足」1名、「とても満足」2名、分かりやすさは「分かりやすかった」1名、「とても分かりやすかった」2名、今後への有用性は「役立つ」1名、「とても役立つ」2名でした。
人数の多さだけで結論を出すことはできませんが、自由記述には、これからの活動にもつながる大切な気づきが数多く書かれていました。
1.受け止めてくれる人がいることの大切さ
参加者の方から、特に参考になった内容として、次の声をいただきました。
「辛いことが起こった時に、受け止めてくれる人がいることがどれだけ大切か」
子どもが困ったとき、大人はすぐに解決してあげたくなります。つらい思いをさせたくないからこそ、原因を探し、正しい行動を教え、早く元気にさせようとします。
しかし、子どもが最初に求めているのは、解決策ではなく、「自分の気持ちがここにあっても大丈夫だ」と思える安心かもしれません。
悲しいときに悲しんでいい。悔しいときに悔しがっていい。何もしたくないときがあってもいい。そう思える場所があることで、子どもは少しずつ自分の気持ちと向き合えるようになります。
大人が答えを持っていなくても構いません。
「何と言えばいいか分からないけれど、あなたの話を聞きたい」
その姿勢自体が、子どもの安心につながります。
2.自己理解がなければ他人の正解に振り回される
別の参加者の方からは、次の言葉をいただきました。
「自己理解ができていないと、他人の正解に振り回されながら他人の基準で生きるしかない、というお話が心に刺さりました」
この方はさらに、子どもだけでなく、他人軸で生きている大人も多いのではないかと振り返り、子どものためにも自分のためにも、自分を知っている軸のある大人になりたいと書いてくださいました。
子どもは、大人が言ったことだけでなく、大人がどのように生きているかを見ています。
親が周囲と比べてばかりいると、子どもも比較によって自分の価値を測りやすくなります。親が失敗を過度に恐れていると、子どもも失敗を「してはいけないもの」と感じやすくなります。
反対に、大人が「私は今、不安なんだと思う」「周りと比べて焦っていたかもしれない」「本当はこうしたかった」と自分の内側を見つめる姿を見せると、子どもは感情や迷いを言葉にしてよいと学びます。
完璧な大人になる必要はありません。むしろ、迷いながら自分を理解しようとする大人の姿が、子どもにとって身近なロールモデルになります。
3.言葉にすることで気づいていなかった自分に出会える
同じ参加者の方は、セミナーの中で質問したことを通じて、周りの母親が自分より上手に子どもと関わっているように見え、知らないうちに比較して「自分はできていない」という思いを膨らませていたことに気づいたと書いてくださいました。
そして、「いくつになっても、気づけていなかった自己に気づくことはある」「そのためには言語化が大事」と実感したという声を寄せてくださいました。
これは、自己理解の本質を表していると思います。
頭の中だけで考えていると、不安は大きな塊のように感じられます。しかし、誰かに話したり、紙に書いたりすると、「私は子どもの将来が心配なのだと思っていたけれど、本当は親として評価されないことが怖かったのかもしれない」と、気持ちの中身が見えてくることがあります。
言語化は、きれいにまとめることではありません。まとまっていないまま話しても大丈夫です。言葉を探す過程そのものが、自分を知る時間になります。
子どもの自己理解を支えるには、まず大人自身が、自分の感情や価値観に気づくことが大切です。大人が自分の不安を子どもの課題と混同しないようになると、子どもの話をそのまま聞きやすくなります。
仲間外れの不安と自己表現の間でどう関わるか
アンケートでは、今後さらに聞きたいテーマとして、次の質問もいただきました。
「仲間外れにされてしまうかもしれないリスクと、自己表現との狭間で、親と子どもは何を意識して過ごしていけばよいのでしょうか?」
これは、中学生にとって非常に切実な問題です。
大人は「自分らしくいてほしい」と願います。しかし、自分の意見を言ったことで嫌われたり、仲間から外されたりする可能性を考えると、簡単に「周りに合わせなくていい」「自分を貫きなさい」とは言えません。
私は、「周りに合わせなさい」も「何があっても自分を貫きなさい」も、少し違うと考えています。
大切なのは、自分を曲げないことではなく、自分の気持ちを知り、それをどう伝えるかを考えることです。
たとえば、友達の意見に納得できないときに、「それは絶対におかしい」と相手を否定するのではなく、「私はこう思う」「私は少し苦手かもしれない」と、自分を主語にして伝える方法があります。
それでも、いつも意見を言えるとは限りません。その場では言わず、あとで信頼できる人に話すことも選択です。関係を守るために一度保留にすることも、逃げではありません。
自己表現とは、思ったことをすべてその場で口にすることではありません。自分の気持ちをなかったことにせず、場所、相手、言葉、タイミングを選んで表すことです。
家庭で親ができるのは、子どもに正解を指示する前に、次のような質問をすることです。
「本当は、どう感じていたの?」
「どうなったら少し安心できそう?」
「自分の気持ちも友達との関係も大切にするとしたら、どんな伝え方ができそう?」
この三つの問いは、子どもに結論を迫るためのものではありません。自分の気持ちと人との関係を両方見ながら、選択肢を考えるための問いです。
もし、仲間外れ、無視、からかい、SNS上の攻撃などが続き、子どもの安全や心身に影響が出ている場合は、子どもだけに解決を任せないでください。担任、学年主任、養護教諭、スクールカウンセラーなど、学校の大人と状況を共有し、具体的な安全確保を優先する必要があります。
「自分で選ぶ力」を育てることは、「自分で何とかしなさい」と突き放すことではありません。安心できる支援を受けながら、自分の気持ちや希望を決める過程に参加できるようにすることです。
家庭で今日からできる三つの関わり方
セミナーの最後には、家庭で今日からできることとして、三つの関わり方を紹介しました。
1.答えを教えない
たとえば、進路について「高校はここにしたら?」と提案する前に、次のように聞いてみます。
「どんな高校生活を送りたい?」
学校名を決める前に、本人が望んでいる生活を一緒に言葉にします。
部活動を続けたい。落ち着いた環境で勉強したい。新しい友達をつくりたい。好きな分野を深く学びたい。通学時間を短くして自分の時間を持ちたい。答えは一人ひとり違います。
望む生活が見えてくると、学校を選ぶ基準も変わります。偏差値や評判だけではなく、「自分に合うか」という視点を持てるようになります。
親が情報を提供することは大切です。ただし、情報と結論は分けて伝えます。
「この学校にはこういう特徴があるよ。あなたはどう感じる?」
このように返すことで、子どもは親の意見を参考にしながら、自分の考えも確かめられます。
2.否定や命令をしない
「勉強しなさい」と言われると、子どもの意識は「勉強するか、しないか」に向かいます。そして、親に言われたから仕方なくする、あるいは反発してしない、という構図になりやすくなります。
そこで、「何のために勉強したい?」と問いを変えてみます。
すぐに答えられないかもしれません。「別にしたくない」と返ってくることもあるでしょう。そのときも、無理に立派な目的を言わせる必要はありません。
「今は、勉強したい理由が分からないんだね」
まずは現状を確認し、「困っていることはある?」「将来の選択肢についてはどう思う?」と少しずつ話を広げます。
命令を減らすことは、放任することではありません。生活上必要な約束を決めることはできます。その際も、一方的に押しつけるのではなく、なぜ必要なのかを共有し、本人の考えを聞き、実行できる形を一緒につくります。
3.問いを返す
子どもが約束を守れなかったとき、「どうしてできないの?」と聞きたくなります。しかし、この聞き方は、子どもに責められている感覚を与えやすく、「忘れていた」「面倒だった」「分からない」で会話が止まることがあります。
代わりに、次のように聞きます。
「何があれば、次はできそう?」
時間を決める。やることを小さく分ける。最初の5分だけ一緒に始める。スマートフォンを別の部屋に置く。分からないところを質問できるようにする。行動できなかった原因を責めるのではなく、行動しやすい条件を探します。
この問いは、失敗を「自分はだめだ」という評価で終わらせず、次の工夫につなげるためのものです。
子どもが自分で答えを見つけられるようになるには、大人が問いを返し、考える余白を守ることが必要です。
質問をすればよいわけではない、大切なのは安心です
ここまで読むと、「子どもには質問をすればよい」と感じるかもしれません。しかし、質問の数を増やすだけでは、自己理解につながらないことがあります。
大切なのは、質問の前に安心があることです。
子どもが「正解を言わなければ怒られる」「本音を言えば否定される」と感じていれば、問いかけは尋問のように聞こえます。
「どうしたいの?」と聞きながら、親の中に望む答えが決まっている場合、子どもはその空気を感じ取ります。
本当に聞くとは、自分の予想と違う答えが返ってくる可能性も受け入れることです。
そのためには、大人自身が、自分の不安に気づく必要があります。
「この子が失敗したら、親として責められる気がする」
「周りの子より遅れているようで焦る」
「自分が苦労したから、同じ思いをさせたくない」
こうした気持ちは、持ってはいけないものではありません。子どもを大切に思うからこそ生まれる感情でもあります。
ただ、自分の不安と子どもの希望を分けて考えることが大切です。
「私は心配している。でも、これは私の気持ちだ。子どもは何を感じているだろう」
このように一度立ち止まるだけでも、関わり方は変わります。
心の天気を聞くことから始める
気持ちを言葉にするのが難しい子どもには、「今の心の天気は?」と聞く方法があります。
快晴、晴れ、くもり、雨、雷、霧、虹など、今の気持ちに近い天気を選んでもらいます。
「くもり」と答えたら、すぐに理由を聞き出そうとせず、「くもりなんだね」と受け止めます。話したそうであれば、「どんなくもり?」「少し晴れ間はある?」と聞いてもよいでしょう。
天気には正解も不正解もありません。昨日と今日で変わっても構いません。言葉にしづらい気持ちを、イメージを使って表すことで、自分の状態を観察しやすくなります。
もう一つ、「今、自分にどんな言葉をかけたい?」と聞くこともできます。
「よく頑張った」
「今日は休んでもいい」
「大丈夫」
「本当は悔しかった」
自分にかけたい言葉には、今の自分が求めているものが表れます。大人が評価する必要はありません。出てきた言葉を大切に扱ってください。
家庭だけで抱え込まず学校や専門家とつながる
子どもの自己理解を育てる責任を、家庭だけが背負う必要はありません。
家庭だから話せることもあれば、親には話しにくいこともあります。学校の先生、養護教諭、スクールカウンセラー、部活動の指導者、地域の大人など、複数の安心できる相手がいることが、子どもの支えになります。
学校でも、答えを教えるだけではなく、子どもの考えを聞く時間をつくることができます。
「なぜそう考えたの?」
「あなたはどちらを大切にしたい?」
「今、困っていることは何?」
「どんな助けがあると一歩進めそう?」
授業、進路指導、学級活動、部活動、日々の面談など、学校生活のさまざまな場面に自己理解の問いを入れることができます。
家庭と学校で答えをそろえる必要はありません。大切なのは、子どもがどこで話してもすぐに否定されず、自分の気持ちを考えられることです。
保護者と先生が「子どもを正しい方向に動かす」という視点だけでなく、「子どもが自分の気持ちを知り、自分で選べるように支える」という共通の視点を持つことで、子どもを取り巻く環境は変わっていきます。
今後聞きたいテーマから見えた学びの広がり
アンケートでは、今後取り上げてほしいテーマとして、「今の時代と昔の時代で、自己理解を妨げるものの具体的な比較」「家庭でできる性教育や金融教育」も挙げられました。
どちらも、「自分で選ぶ力」と深くつながっています。
今の子どもたちは、SNSや動画を通じて、大量の情報や他人の生活に触れています。選択肢が増えた一方で、常に誰かと比較し、自分の気持ちよりも「どう見られるか」を優先しやすい環境にいます。
昔にも、周囲の期待や同調圧力はありました。ただ、現代は比較の対象が学校や地域の中だけではなく、画面の向こう側まで広がっています。情報が途切れにくく、自分を振り返る静かな時間を持ちにくいことも、自己理解を難しくする要因の一つです。
だからこそ、AIやSNSを遠ざけるだけでなく、「この情報を見て自分はどう感じたか」「本当に自分が望んでいることか」「誰の基準で選ぼうとしているか」を確認する習慣が必要になります。
性教育も金融教育も、知識を与えるだけでは十分ではありません。
自分の身体や気持ちを大切にすること。嫌なことに気づくこと。相手の意思も尊重すること。お金を何に使うかを、自分の価値観と結びつけて考えること。困ったときに助けを求めること。
これらはすべて、自分を知り、自分と他者を尊重し、自分で選ぶ力につながります。今後のセミナーでも、参加者の皆様からいただいた声を大切にしながら、具体的に扱っていきたいと考えています。
子どもに必要なのは正解ではなく問いを返してくれる大人
私たち大人は、子どもより多くの経験を持っています。だからこそ、失敗しそうな道を避けさせたくなります。効率のよい方法を教えたくなります。
しかし、大人の役割は、すべての答えを与えることではありません。
子どもが自分の答えを見つけられること。自分で気づけること。そのための環境をつくることです。
問いを返すとは、子どもを放置することではありません。一緒に考えるために隣にいることです。
「あなたはどう思う?」
「何を大切にしたい?」
「どんな助けが必要?」
「次はどうしてみたい?」
こうした問いを、安心とともに届けることができれば、子どもは少しずつ自分の内側にある答えに気づいていきます。
すぐに答えが出なくても大丈夫です。迷う時間も、言葉にならない時間も、自己理解の一部です。
AIが進化しても自分の人生を生きるのは自分
AIは、これからも進化します。今できないことも、数年後にはできるようになるでしょう。教育のあり方や仕事の形も変わっていきます。
それでも、「自分の人生をどう生きるか」をAIに決めてもらうことはできません。
AIに勧められた学校に進むとしても、そこで毎日を過ごすのは本人です。AIが向いている仕事を提案しても、その仕事に喜びや意味を感じるかどうかは本人にしか分かりません。
だからこそ、子どもたちには、答えを早く出す力だけでなく、立ち止まって自分に問いかける力を身につけてほしいと思います。
そして、その力は、特別な授業の中だけで育つものではありません。
子どもが話したときに、すぐに否定せず受け止めること。大人の答えを渡す前に、子どもの考えを聞くこと。失敗を責めるのではなく、次にできる条件を一緒に探すこと。大人自身も、自分の不安や価値観を言葉にすること。
日常の小さな関わりの積み重ねが、子どもの自己理解を育てます。
ご参加いただいた皆様へ
今回のセミナーにご参加いただき、ありがとうございました。
アンケートには、「人生の中で最も尊いことを教えてもらった」「自己理解について共有できる人になかなか出会えなかったので、会えたことがうれしかった」という、大変ありがたい言葉もいただきました。
また、ご自身の子育てを振り返り、比較していた自分に気づいたこと、言葉にする大切さを実感したことも、率直に書いてくださいました。
セミナーは、講師が一方的に答えを伝える場所ではありません。参加された方が、自分の気持ちや日々の関わりを振り返り、新しい問いを持ち帰る場所だと考えています。
皆様からいただいた質問や感想は、今後のセミナー、保護者支援、学校での取り組みに生かしていきます。
私は、子どもたちが自分を信じ、自分の人生を自分として生きていける社会をつくりたいと考えています。そのために、自己理解を家庭だけの課題にせず、学校や地域でも学べる環境を広げていきます。
自己理解は、子どもだけに必要なものではありません。
大人も、自分の気持ちを知り、自分の価値観を確かめながら生きていくことができます。大人が自分と心のキャッチボールをする姿は、子どもに「自分を大切にしていい」と伝えることにもつながります。
今日、子どもが話しかけてきたら、答えを返す前に、一度その言葉を受け止めてみてください。
そして、こう聞いてみてください。
「あなたは、どうしたい?」
答えがすぐに出なくても、その問いを安心して考えられる関係があれば、子どもは少しずつ自分の人生を選べるようになります。
人生は、自己理解から始まります。
セミナーや個別相談について
ライフコモン株式会社(大仏コーチング)では、中学生の進路相談・お悩み相談、保護者の方向けの子育て相談、学校・教育機関向けの講演や研修を行っています。
「子どもの気持ちを聞きたいけれど、会話が続かない」
「進路について、親子だけで話すとぶつかってしまう」
「学校で自己理解を学ぶ機会をつくりたい」
このようなお悩みがありましたら、お気軽にご相談ください。
著書『心のキャッチボール ~自分を知る練習ノート~』は、中学生が自分の気持ち、価値観、得意なことや大切にしたいことを考えるための本です。保護者の方や先生にも、子どもの話を受け止めるための共通言語としてお読みいただけます。
家庭、学校、地域が一緒になって、子どもが安心して自分を知り、自分で選べる環境をつくっていきたいと思います。
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